百田尚樹氏講演会企画について、当時のKODA委員にインタビューをしてみた

~企画、制作の経緯~

こんにちは。

私たちは社会学部と法学部からなる学部生4人組の外部ライターです。私たちは何かの団体に所属しているわけではなく、今回の調査企画のためにクラ友などの緩い繋がりで集まりました。

 

さて、突然ですが、皆さんは昨年のKODAIRA祭での百田尚樹氏講演会中止騒動を覚えているでしょうか。

私たちはその騒動受け、以下のような理由からKODAIRA祭実行委員会(以下、実行委員会)の講演会担当者にインタビューをしてみることにしました。そして、そのインタビューから明らかになったことと、それを受けての今回の騒動に対する考察をヒトツマミさんに載せて頂くことにしました。

 

インタビューの理由

〇情報が錯綜しているけど、何が本当なのだろう。実態を知りたい。

〇講演会を中止しないという決断(やその決断に対する説明)について、担当者個人に対する批判が多く見受けられたが、実行委員会、学部生、一橋大学というような単位で、それらの組織としての対応に問題点は無かったのだろうか。

 

記事執筆の理由

〇今後のKODAIRA祭をより良いものとするために何かできることはないのか。

〇学外や学内の院生の意見はよく耳にするけど、学部生の声はあまり聞こえてこない。本来、最もKODAIRA祭に身近であるはずの学部生の声を残しておきたい。

 

インタビューから明らかになったこと

①    百田尚樹氏選定の理由

●兼松講堂を観客でうめることのできる百田氏の知名度。

●昨年のトランプ大統領の誕生やイギリスのEU離脱などマスコミの流す情報とは逆の現象を目の当たりにして、「マスコミをテーマにやってみたら、面白い」と思ったから。

●百田氏の『大放言』という本を読んでいて、その中で百田氏が鋭いことを言っていたから。

●百田氏が関西人なので、かたい内容になり過ぎない観客の楽しめるユーモアのある講演会にできると考えたから。

 

②    百田氏を講演者にすることに対する委員会内の反応

●知名度がある一方で、百田氏の発言や考え方、ツイッターが炎上していることを懸念する声があった。

●それに対しては、「ツイッターで炎上しているような過激な内容を入れないような、内容にするから問題ない」と考えた。

 

③    批判があった後に続行を決めた理由

●批判が来始めたのは春休みあたりから。立て看板などを立て始めた頃から電話やダイレクトメッセージを通じて批判が来るように。

●批判があっても続行を決めたのは、反対運動は起きているが、中止をするほどまでの騒動ではないと考えたから。

●百田氏の言動がヘイトスピーチであるということで中止を求められていたが、百田氏が講演会で発言すること自体はヘイトスピーチに当たらないだろうと考えた。また、「言論の場を奪ってしまうことはおかしいんじゃないか」とも考えたから。

 

④    最終的に中止に至った理由

KODAIRA祭当日に抗議運動やヘイトクライムが起きる可能性を考慮し、警備を用意することになった。しかし、その警備によって新入生が主体となって行う他の企画を行うことが出来なくなる事態となった。それを受けて、「KODAIRA祭自体の主旨、というか一番根幹にあるのが(中略)新入生の楽しめる新歓期の集大成であること」を鑑み、「それなのに新入生の企画に支障があってはだめだろうということになって」中止にいう判断に至った。

 

⑤    来年度の委員への引き継ぎに関して

事実や経緯については引き継ぐが、その上で「基準とかについては次の世代には特に設けず、自由にやってほしい」と考えている。

 

⑥    選定のプロセス

●講演者を選び始めるのは前の年の10月から。そして、どんなに遅くても2月までには講演者を決定しなければならない。

●候補者案は、複数人同時に考えていく。百田氏もそのうちの一人であった。

●委員会では候補者案のアンケートを紙で取り、意見を集める。その際には、まだ一年生委員の入っていない時期なので、アンケートに答えるのは二年生委員のみ。

●その委員会の意見を集めた上で、最終的には講演会担当の二人が講演者を選定する。例年、担当者の好みに左右されるところはある。

 

⑦    実行委員会に関して

●人が変わるため、委員会のシステムも毎年変わる。

●パートの数も年による。昨年は7パートに分かれていた。

●昨年の二年生委員の人数は22人。一年生委員は170人くらい。

●二年生委員には、一年生委員を経験していないとなることができない。

●二年生委員の中で、各担当は話し合いによって決められる。

●講演会担当は二年生委員しかなることができない。

 

考察

①    情報公開制度の必要性

まず、私たちが感じた今回の騒動の問題点の一つに、実行委員会にはどのような人たちがいて、その人たちがどのようなことを考えて行動をとっていったのかということが、わかりづらかった点が挙げられると考えます。この背景には一、二年生の際には実行委員をやっていなければ、KODAIRA祭には参加するけど委員会とはほとんど接する機会がないという人が多いことや、三、四年になるとそもそもKODAIRA祭との関わりがなくなる人が多いことや、実行委員会から出される情報が少なかったことがあると考えられます。

 そこで、私たちは情報公開制度が必要であると考えます。それは講演者の候補を考えた早い段階で公表するというものです。その際になぜその候補者たちにしたのかということを発案者の意図やそれに対する委員会内で出た賛否を含めて、詳しく説明をします。こうすることで、実行委員会の考えが外部の人間であってもわかりやすくなります。また、この段階で公表すれば、委員会外の人々の幅広い意見を聞いてから最終的な候補者を絞ることができます。そして、特にその中でも学部生と実行委員会とが意見交換することができれば、学部生と実行委員会との関わりを増やすことができ、KODAIRA祭への学部生の関心も高めることができると思います。

 ただ、その段階での公表が難しいのであれば、講演者を最終的に決定した後であってもなぜその講演者を選んだのかについて、委員会内での議論を含めて詳しい説明をすると良いと考えます。

 

②    大前提の共有

次に、私たちが感じた今回の騒動の問題点は、「人種差別的発言は絶対に許されるべきことではない」という大前提の共有がなされていなかった点です。

今回のインタビュー企画の参加メンバーの一人は昨年の8月から長期留学をしています。彼女は留学をする前と後では今回の騒動に対する感じ方が変わったそうです。以下の文章は彼女が書いたものです。

 

やっぱり日本にいた時は自分がマジョリティだった分、どうしてもマイノリティに対する想像力が欠けていたなと今改めて思っています。

正直、百田さんの講演会をやること自体そんな大騒ぎすることなのだろうか、いろんな意見があるのは当然、気にしなければいい話なのでは?と感じた瞬間もありました。でも、人種によって全く知らない人のことまで決めつける発言(百田さんがするような)がどれほど人を傷つけるのか、それを許す(もしくは問題としない)周りの雰囲気がどれほど人を悲しませるのか、今は前よりわかる気がしています。

特定の民族を貶めるような発言はダメだ、とはよく言われますが、実際にそれを強く感じている人がどれほどいるのかは疑問です。今回の問題は、人種差別反対or言論の自由、という構図が少なからずあったように思いますが、その二つを天秤にかけて議論する以前に、「人種差別的発言は絶対に許されるべきことではない」という大前提は共有されるべきだったと思います。今回、KODAIRA祭委員会や大学側は、「今回のイベントの議題は人種差別とは関係ない」ということで話を進めていたように感じましたが、人種差別的発言が度々注目されている百田さんのような人を呼ぶ以上、KODAIRA祭委員会や大学側は、差別的発言に明確に反対だということを示すべきだったと思います。

 

まず、実行委員会の差別に対する姿勢を見ていくと、インタビューの中にあったように実行委員会の中でも百田氏を講演者にすることに対して、知名度がある一方でツイッターが炎上している点を懸念する声がありました。しかし、それに対しては「ツイッターで炎上しているような過激な内容は入れないような内容にするから問題ない」と考え、批判の後にも続行が決定されました。

次に、大学の差別に対する姿勢を見ていくと、一橋大学大学院言語社会研究科はKODAIRA祭の終わった2017年6月22日に「人権尊重についての声明」を発表しています。その中では「大学のすべての構成員は、(中略)いかなる人も差別を受けることなく、安心して学問研究に携わることのできる環境を築き、それを不断に改善していく責務を負っています[i]」とした上で、「根拠のない流言や、ヘイトスピーチなどの差別的・暴力的発言が横行する状況を強く遺憾とし、あらゆるひとびとの人権が尊重されるキャンパス実現のために、今後とも努力をしていく決意をここに表明します[ii]」と差別に対する明確な反対がなされています。つづく、2017年7月12日には一橋大学大学院社会学研究科・社会学部が「すべての学生・教職員の人権が尊重されるキャンパス実現のために」と題された声明を発表しています。この声明文でも、先ほどと同様に「社会学研究科は、今回の件で不安をおぼえている学生・院生のみなさんを全力でサポートし、いかなる人権侵害も許さない方針であることをここに改めて表明します[iii]」と差別に対する反対の意が述べられています。 

しかし、これらの声明は一橋大学全体からのものではなく、一橋大学大学院言語社会研究科や一橋大学大学院社会学研究科・社会学部というごく限られた人々からのものです。2月8日現在も一橋大学全体や他の研究科・学部からは今回の騒動に関する公式な声明は出されていません。

 これらの実行委員会や大学の姿勢について考えると、「人種差別的発言は絶対に許されるべきことではない」という大前提の共有は不十分であったと考えられます。

 

 

[i]一橋大学大学院言語社会研究科(2017)「人権尊重についての声明」、<http://gensha.hit-u.ac.jp/news/2017HR.pdf>2018年2月8日アクセス

[ii] 同上

[iii]一橋大学大学院社会学研究科・社会学部(2017)「すべての学生・教職員の人権が尊重されるキャンパス実現のために」、<http://www.soc.hit-u.ac.jp/info/pub/20170712.html>2018年2月8日アクセス

 

 

*[編集部より]本記事は外部ライターからの寄稿記事であり、ヒトツマミとしての立場・主張を示すものではありません。

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