【解説つき】世界史”未”選択ライターたちが寄ってたかって一橋世界史の400字記述を無理やり解いた

世界史勢よ、我々のあがきを笑うな。

こんにちは、初代ヒトツマミ王の真木すきまです。寒さ厳しくなりましたね。

受験生のみなさんはそれはもう佳境に入られたことと思います。

冷える指先を温めてシャーペンを握り、吐く息で赤シートを曇らせながら暗記に精を出し……

そんなガンバってる皆さんへの応援の気持ちを込めて、我々ヒトツマミは新しい受験生応援企画を始めます!

むやみに身体を張ったりむやみに対談したりと、ヒトツマミならでは(悪い意味で)の応援ができたらと思います。

 

 

ソフィーの世界「で、何するよ」

真木すきま世界史マスターと名高いソフィーの世界じゃないですか。何か面白くてかつためになる受験生企画はないかなあ」

ソフィーの世界「せっかくだから世界史の企画をやるべきだね」

真木すきま「ゴリ推しますわね?とはいっても私、世界史習ったことないからな。これじゃ偉そうに講釈垂れることができない」

ソフィーの世界「ふふーんなるほど、ちょうどいいや。きみが世界史400字記述を解きなさい。俺はその様子を楽しく見物して記事にするよ」

真木すきまあ、悪徳ライターだ!!!助けて~~~

その呼び声を聞きつけて集まってくれたのは、ヒトツマミ編集部員、ライター、その他のHASC部員など名うての4人。私を含めて5人。

 

紹介しよう!

 

 

AMO ライター。センター日本史/倫政、二次は日本史。もともと理系を志していたこともあり、たぶん数学的な考え方はお手の物。

うどんパンダ 編集部員。センター地理/倫政、二次は地理の希少タイプ。国の場所がわかる。すごい。

うめぼし HASC部員。帰国子女枠受験のため社会科目未選択。グローバルな視点での鋭い指摘が期待される。

七階 編集部員。センター日本史/倫政、二次は日本史。ヨーロッパの配置が全く分からない。

真木すきま ライター。センター倫政/日本史、二次は日本史。世界史については「カノッサの屈辱」(名前がかっこいい)以外に特に知っていることはない

 

 

みごとに 世界史”未”選択者 が あつまった!!

 

問題

(一橋大学世界史 2007年度大問Ⅰより出題)

 

 

真木すきま「一単語も分からん」

七階「『必ず使用する以下の語句』が一個も分からん」

うどんパンダ「諦めてビジ基礎解こう」

ソフィーの世界が自信をもって選んだ問題に立ちすくむ5人の精鋭たち。世界史選択者よ、笑うなかれ。墾田永年私財法とか知ってる!?(いや知ってると思う)

AMO「まって、カール大帝聞いたことある。ルートヴィヒ一世も聞いたことある」

つらつらと『聞いたことがある』単語をピックアップし始めるAMO。とりあえずなんか聞いたことのある単語に下線を引っ張ってみる戦法を取ってみます。

うめぼし「えーフランク王国ってどこ?」

真木すきま「フランスじゃないの」

完全に語呂でしゃべっている。投げやりです。世界史選択者よ、笑うなかれ。武家諸法度とか知ってる!?(たぶん知ってると思う)

 

 

 

真木すきま「簡単にまとめるとさ、こういう構成で記述すればいいのかな?」

しかし、文章中に出てくる『二つの条約』に匙を投げる面々。もうわかんないじゃん。

真木すきま「気を取り直して必要語句についてまとめてみよう」

七階マジャール人って明らかにネイティブじゃね?名前強そうだし原住民ぽい」

AMO「採用」

採用。

ロートリンゲン……地名……人名……?」

うめぼしロートリンゲンはたぶんフランス語でロレーヌだった気がする

ここでグローバル女子(偏見)のうめぼしが会心の一撃。

 

「じゃあフランスの地名?ロレーヌ地方?」

「神聖ローマ帝国はロートリンゲンにあるの?」

「神聖ローマ帝国ってイタリアだからちがくない?」

 

AMO「ロートリンゲンに”あった”んじゃないの?フランク王国が」

七階「あ~そっち派ね~」

勝手に学術的な派閥を作るな。

△会議は踊る、されど進まず

 

真木すきま「これだけじゃ全然足りないからなんか理由付けとかすればいいのかな?東側が発展した理由みたいなの」

うどんパンダ「神聖ローマ帝国はなんで栄えたか、とか?」

「神聖だからじゃないの」

「ローマ……地中海に面してるな」

「海産物一択」

「それだ、グルメだ」

「温暖な地中海の気候、豊富な海産物にグルメ、神聖ローマはヨーロッパのリゾート地として大いに栄えたに違いない

「いいな~私も神聖ローマ帝国住みたい」

「いい流れ来てる」

「パスタ」

いい加減なことをやいのやいの言いあう大学一年生たち。国立駅前ので育った我々貧乏学生の頭の中にはもうイタリアと聞けばミラノ風ドリアしかないのです。

残りの懸案事項もなんとかやっつけだらしない作戦会議も何とかいい感じに収束。手元には大量の解読不能なメモが残された。

そして最後はとやかく言わずに埋める!埋める!!!

 

 

真木すきま「これぞ名うてのヒトツマミライター、長々しい駄文を瞬時に生成する能力をしかと見よ!!!!!!」

 

マジで中身のない手元の議事録メモをわき目に、せっかく刷ってきた下書き用紙も使わず一気呵成に書き上げました。

どうでもいいですけど私って右利きで、そんで消しゴムは左手で持つ派なんですよ。メチャメチャ効率的じゃないですか?

 

ヒトツマミたちの解答

カロリング家の血を継ぐルートヴィヒ一世の死後、二人のあやしい王位継承者と名乗るものが現れ、方向性の違いにより東と西に分裂した。その際、お互いに干渉しないことと、互いの国の行き来には関所を必ず通らなければならないという二つの条約を結んだ。そういえばフランク王国はロートリンゲンにあった。西側の人々は森に逃げたが、現地の原住民マジャール人の驚異的な戦闘力にあらがえず、衰退を余儀なくされた。その強い原住民たちは自らの手で部族の長を王として王朝を作り上げた。のちのザクセン朝である。一方東側は、地中海の温暖な気候で豊富な魚介類が取れ、ヨーロッパ屈指のリゾート地として大いに栄えた。これが神聖ローマ帝国であるが、魚介をその国で一番採れる名手が国王に選ばれ、リゾート地を治めることとなった。彼の名前はハインリヒといい、漁夫でありながら神格化され、とうとう国王になりハインリヒ一世と名乗った。のちの漁夫の利(諸説あり)。

 

所感

最後の1マスまできっちり埋める心意気と執念だけは評価してほしい。400字記述にそういえばっていう単語とのちの○○であるっていう投げやりすぎる濁し方諸説ありっていう注釈を入れたのは我々が初めてだと思われる。いやでも本番でも書くことがなくなって困ったときにいい加減な歴史エピソードをでっちあげて「(諸説あり)」、使えるんじゃないかな!?

関所は完璧に日本史脳ですね。時代錯誤感が半端ないけどそもそもいつの時代かすら分かっていないから仕方がない。

 

それでは世界史マスターのソフィーの世界にお繋ぎいたします。ここからちゃんと解説。どれくらい合っているのだろうか……3分の1くらいの配点はもらえないだろうか……。


解説

どうも、ソフィーの世界です。

まず、真面目なかつ簡単な解説から入りたいと思います。

前提として、フランク王国はカール期までにフランス・ドイツを中心とする西欧の主要地域を政治的に統一するわけです。

しかし、ルートヴィヒの死後、その息子たちの間で領土を巡る対立が生起します。

これを受けて、843年のヴェルダン条約でフランク王国は東フランク王国、西フランク王国、中フランク王国の三王国に分裂、さらに870年のメルセン条約で中フランク王国の一部が残りの二王国に割譲されます。

これにより東フランク王国、西フランク王国、中フランク王国がそれぞれドイツ、フランス、イタリアの雛形となります。

この際、ロートリンゲン(フランス語名ロレーヌ)が東フランク王国に属することとなります。

ここまでが前半戦です、後半戦に入りましょう。

911年にルートヴィヒ4世が死去し、東フランク王国におけるカロリング朝の血統が断絶します。

その後、選挙王政(有力貴族が国王を選出する政体)を経て、919年にハインリヒ1世が即位しザクセン朝が成立します。

その息子のオットー1世は、955年にレヒフェルトの戦いでマジャール人(東からやってきたアジア系遊牧民)を撃破したことで西欧キリスト教世界の守護者としての権威を手にし、さらに960年には教皇を保護すべくイタリアに遠征してその信任を得ました。

そして962年、ヨハネス12世の手によりオットーはローマ皇帝として戴冠、こうして神聖ローマ帝国が成立しました。

 

これらの内容を400字以内でまとめればそれなりの答案になることかと思われます。


一橋大学は伝統的に中世ヨーロッパ史、さらにはドイツ史に強い大学ですから、入試でもカールやオットーの戴冠に関する問題は良く出題されます。ですから、こういった問題のメロディーラインの理解は一橋を世界史で受験する人間には必須といってもいいでしょう。

解答に求められるロジックは割と単純ですし、ピックアップされやすい政治史の問題ですから、この問題は書きやすいといったら書きやすい論述問題なのかもしれません。

しかし、この問題が難問扱いされる理由はしっかりとあります、それは指定語句の難しさです。

ロートリンゲンやハインリヒ1世といった単語は高校世界史ではめったに見かけません、つまり受験生はほとんど聞いたことない単語を400字の論述の中に埋め込む必要があるわけです。仮に間違った使い方をしてしまったら、その時点でロジックが滅茶苦茶になり、破綻した解答と化してしまいます。

ロートリンゲンを地名でなく人名だと思った輩がいたとかいなかったとか…まあ人名由来ではあるんですけどね。そもそもフランス語のロレーヌなら知名度が高いのに、あえてドイツ語読みを使うあたりがいやらしいですね。

そういう大学ですから、受験生諸君、特に中世ヨーロッパ史とかはよく勉強してください。

単語はもちろんのこと、その単語が現れるロジックもしっかりと把握してください。健闘を祈ります


さて、彼らの回答の批評に入りましょう。

正直言ってツッコミどころしかありません。

ドイツは地中海に直接接していませんし寒いです、たぶん。マジャール人は西側のネイティブではなく東側からのインベーダーです。

しかし、評価したいポイントもいくつかあります。

まず前述のとおり、400字書き上げたこと。聞いたこともない単語だらけの試験でパニックになることは受験生、大学生問わずよくあることでしょう。しかし、そこで筆を止めない勇気を発揮できるか否かが明暗の分かれ道になることもあります。彼らはその点、試験を受ける全人類に教訓を残したといっても過言ではありません。

そして、難易度が高い単語さえも一切難しいと思わせない雰囲気。ルートヴィヒ1世なんて普通の高校教科書ではめったに出てきません。それなのに「聞いたことある」、人間の記憶の改竄の恐ろしささえも感じました。そしてあたかも間違っていないかのように間違った文脈にねじ込む。こういった能力はお偉いさんになったときに非常に役立つものだと思われます。

これらの教訓を残した彼らの答案に大きなバツだけをつけるのは非情であると思い、某予備校の採点基準に基づき頑張って採点しました。

「分裂した王国の数が2/3だから点数も2/3か…」「ロートリンゲンはフランク王国の中にあるからな…」

なんと30点満点で3点も入りました、というか入れてしまいました。自分でも信じられませんし、信じたくもありません。

以上、ソフィーでした。


感想戦

「ハァ……中フランク王国とか聞いてないし……これは問題に不備がある」

マジャール人原住民じゃなくてどっちかっていうと後から来た方じゃん……だまされた……」

解説を聞きながら好き勝手に問題文や史実に文句をつけ始める面々。

そう、私たちはまごうことなく世界史未”選択者。でもがんばって一つ一つかみ砕いて、論理立てて考えに考え一生懸命に答案を作ったら、30点中3点ももらえたよ。受験生の皆さんは私たちのしゃかりきスピリッツを見習って、最後の一秒まで粘ってくださいね!

 

 

 

 

ヒトツマミはすべての受験生を応援しています。

 

 

 

 

 

 

今回解説・採点を担当したソフィーの世界が一橋世界史の極意を説くおすすめの記事はこちら

一橋受験生必見!女子大生のお姉さんが教える一橋世界史の攻略法!